胃がいくつあっても足りない
疲れている。
最近あまり仕事がうまくいっていない。
いや、細かく言えば、会社がうまくいっていない。
私の勤め先は、社員が3人しかいない。
あと社長が1人。
60を超えたおじぃさん。おじさんとおじいさんの境目くらいだ。だからおじぃさん。
入社当時は居心地が良かった。この人数だからか、昼ご飯は社長が作り、みんなで食べていた。アットホームを通り越して家族のようだった。
だが、ちょっとずつ、ちょっとずつ、おや?と首をかしげる回数が増えてきた。
会話が、通じない…?
社長が出した指示を、社長が覚えてない…?
社長、メール見てます…?
社長、このデータ、送らされるの3回目ですよ…?いや、送りますけど
社長、コーヒー淹れろって言うから淹れましたけど…その手に持ってるコップは…?(社長、自分で淹れてた)
社長、今日会議ですけど…?え、書類、どこにやったんですか…?(社長、このあとキンコーズまで走った)
社長、一つの会議の中で何回意見変えるんですか…?(無論、自分が意見を変えたことなど覚えていない)
社長、なんで怒ってるんですか…?
社長、これはあなたが出した指示ですよ…?
胃がキリキリする。
社長は会議のたびに知ったかぶりをし、あてずっぽうな発言をし、他社の人を混乱させる。
それを見て私はまた胃を痛める。
結果、仕事が減った。
私のではなく、会社の。
会社の中がピリピリしている、と言うよりは、社長が1人でピリピリしている。
なんでもないことでもイライラしながら話す。
私は社長が怒り出すと、どれだけ理不尽でもビビって声が出なくなる。
大学の頃は全くこんなことはなかった。
相手が間違ってると思ったら声をあげて指摘していた。
「いや〜社会に出て弱くなったなぁ」と思っていたが、最近気がついたことがある。
どうやら、怒られていることにビビっているのではなく、言葉が通じない相手に対してビビっているようなのだ。
私は幼い頃から、道端や電車の中で独り言を言うタイプの方によく絡まれる。
そのタイプの方を相手にすると、自分が正論だろうが間違っていようが、関係ないのだ。
向こうは向こうの(非常にオリジナルな)尺度を持って挑んでくるため、そこに常識など全く意味をなさないのだ。
社長に怒られている時の恐怖は、そのタイプの方に絡まれる恐怖にとてもよく似ている。
別に社長の頭がどうのとか、全く言う気は無い。
ただ私はそんな恐怖を感じながら今日も理不尽に怒られる。
この人生で、腹痛で電車を降りたことなどなかったが、今月もう2回も謎の腹痛に襲われて途中下車した。
なるほど、私がこの会社を辞める日も近い。