慣れないことするといっつも失敗すんだ

なんなんだろうな。


自信の無さと言うか。


何が原因かわからないけど、思いつきで行動すると大体失敗する。




今日も弁当を作ってくるのを忘れた。


せっかく節約してるのにね。


とりあえず会社を出てコンビニに行くか。


安い弁当でも買って会社のリラックススペースで食べればいいだろ。


いや、待てよ。


社内で最近不安定なAさんがリラックススペースから出てこないという話を小耳に挟んだ。


そんなとこじゃ飯は食えねぇ。


うーん、じゃあ会社近くの安いカフェに行くか。


いや、あそこはBさんもたまにランチに行くって言ってたっけ。


今日は人に会いたい気分じゃないなぁ。


ふむ。


じゃあ行ったことない店に行ってみるか。




そんなことを考えて会社の周りをとぼとぼ歩いた。


本当ははなまるうどんが安くていいんだけど、今日はうどんの日じゃない。


とぼとぼ。


なんか米が食べたいな。


こめこめ。


地下にある居酒屋がランチをやっている。


なんか暗くてよくわかんないけど、いざ降りて満席だったら恥ずかしいからスルー。


辛いラーメン屋さんがある。


米派の私も思わず食指が動くが、今日は午後から会議がある。


スパイシーなお口で会議に参加するのはちょっと嫌だな。スルー。


あっ、向こうの通りに松屋がある。


…もう松屋でいいかぁ。安いし。


松屋に向かって歩いた。


馴染みの深い松屋。大学生のときは週3くらいでお世話になったね。


きっとここ渋谷でも君は同じ顔して受け入れてくれるんでしょ?


あぁ、思い出してきた。生卵をつけて、なんかタレを入れるとうまいんだコレが。


さっきより若干勇み足で松屋にぐんぐん近づく。




おや。


こんな所に親子丼屋さん。


なんか和風な入り口。


ふーん…。


親子丼、900円。


なかなかに高いが、写真を見ると卵がきらきらとろとろしてて良い感じだ。


やっぱね、ここ都会渋谷でまで松屋はないでしょ。


もう大学生じゃないんだし。


いぱっしの社会人として収入だって安定してんだから。


しかも知らない店を1人で発掘って、大人なんじゃない?


24歳として歩むべき道なんじゃない?


松屋は卒業すべきなんじゃない?




親子丼屋さんに入店。


引き戸を開けると予想以上に暗かった。


縦に長い店内で、カウンターには3人ほど客がいた。


もそもそと奥へ進み、ちょうど良さそうなとこに座ってみた。


おしぼりを渡されたと同時に注文。


「親子丼お願いします」


「はいっ!50円でスープおつけできますが、どうします?」


私は暖かい飲み物が好きだし、50円なら財布的にも全く痛手ではない。


「いやっ大丈夫です!」


なんか口が勝手に断ってた。


900円という値段にすでにビビっていたため、値段が増加することに反射的にNOを出してしまった。


しかも喉の具合を間違えて無駄に元気いっぱいで返事をしてしまった。


店員さんのちょっと不審そうな目を気力で回避する。


とりあえず料理がくるまでスパイダーソリティアをして暇をつぶす。


スパイダーソリティアはいいぞ。無心になれる。瞑想と同じだ。


意外と親子丼はすぐにきた。


丼の蓋をあけると金色のほかほかのきらきらのとろとろ。


ちょっと神秘すら感じる。


ナウシカの舞台はここかしら?


さらに卵黄がぽってりと乗っていた。


あ〜〜これがインスタ映えってやつね。


いざ行かん。と思って気がついた。


割り箸しかない。


えー。


れんげとかないの?


だってとろとろなんですけど?


これ割り箸じゃ掬えないって〜。


れんげくださいって言おうかな…。


でもさっきみたいに喉がバグったら嫌だな…。


仕方ないので割り箸で食べ始める。


最初はまだ食べられる。


しかし終盤割れた黄身がいい感じに行き渡って箸じゃ掬えないのは目に見えてる。


くそっ。どうしろってんだ。


どうしたらこの親子(丼)を救って(掬って)やれるってんだ。


ふと。気付いた。


あれ。


横の人れんげ使ってない?


使ってた。


れんげで楽々掬って食べてた。


そして盆の上には親子丼の器ともう一つ、スープの器があった。


あ〜〜〜スープを頼んだら付いてくるのね〜〜〜〜。


ここでまたスープを頼まなかったことの後悔がはじまった。


虚ろな目で親子丼をつついていると、横に新しい客が来た。


綺麗で元気な女。


あ〜〜〜〜〜だめだ。私は綺麗で元気な女が苦手。


もういっそお前もスープを断ってしまえ、そうして割り箸で救えない親子丼を嘆こうぜ。


しかし綺麗な女は元気にスープも頼んでいた。


いいよいいよもう。


もうれんげをお願いする気もわかないよ。


こうやって割り箸で少量ずつ食べるさ。


意外といけるんだぞ?自然と食べるペースもゆっくりになって健康的だし。


は〜〜〜〜もう散々ね、と思って。


山椒でも入れちゃおうかしらって。


大人の風吹かせてリフレッシュしちゃおうかしらって。


山椒の入れ物を手に取った。


山椒の入れ物には、頭の部分にちゃんと「山椒」って書いてあったからなんの迷いもなかった。ありがたいね。


いざ行かん。と入れ物を傾けたその時。


「山椒」のシールがぺろりと取れ、私の親子丼の中にダイブ!


「えっ」とか「あっ」とか「やべっ」とか。


言いたいことが一瞬で渋滞して、出た言葉は「むん!」だった。


「むん!」


目を疑ったけど、シールは見事に親子丼にダイブでゴールで完璧ホームランでした。


もう最悪。


指でそーっとつまみだして、もう一回入れ物の頭にくっつけようかと思ったけど、私の食べかけ親子丼もついてるわけだし、私は構わないけど、なんか衛生面的に嫌よね、と思って丼の蓋に載せといた。


ってか衛生面で言ったら私の親子丼もこいつ(シール)に触れているわけで。


不快だけどもう何も考えないことにした。


っていう一連の流れの中、私のお利口な左手はずーっと山椒を振りかけていたみたいで。


も〜働き者なんだから!なんて言えないくらい。


こんな働いたら労働法違反なんじゃない?ってくらい。


山椒が大量にかかってました。


道中でスパイシーなラーメンを避けてここまで来たのに、気がついたら親子丼はとってもスパイシーに。


まさに劇的ビフォーアフター


匠はこんな所にいたのね。


もう何も考えず。全てを胃に入れるだけの機械となって食した。


最後に放った「ごちそうさまでした」の時、喉がバグらなかったのだけが唯一の救いかな。


もう、明日から、外食はしません。